西論

大川小津波訴訟 求められた事前防災、鍵は地域力

【西論】大川小津波訴訟 求められた事前防災、鍵は地域力
【西論】大川小津波訴訟 求められた事前防災、鍵は地域力
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 今も忘れられない光景がある。

 東日本大震災の発生から2日後、私は津波で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市で取材をしていた。がれきが積み重なり、道も住宅も区別がつかない市街地。周囲に黄色いビニールひもが結びつけられた、たくさんの木の棒が見えた。不思議な風景だった。捜索に当たる自衛隊員が教えてくれた。「遺体を発見しても収容まで手が回らないんです。木の棒は、そこに遺体があることを示しているんです」。悲しく、切ない墓標だった。

 東日本大震災では、太平洋沿岸部の至る所で巨大な津波から逃げ遅れた人々の尊い命が失われた。北上川の河口から約4キロさかのぼってきた津波が押し寄せた宮城県石巻市立大川小学校も、そんな場所の一つだ。

 何の落ち度もない74人の児童が、避難誘導をしていた10人の教職員とともに津波の犠牲になった。責任はどこにあるのか。4月26日、大川小の児童23人の遺族が市と県に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が仙台高裁(小川浩裁判長)で言い渡されたが、それは今後の防災行政に極めて高いハードルを突きつける内容だった。

 ◆公式情報を疑え?

 震災直後に子供たちを適切に避難させなかったとして、過失責任を現場の教職員に求めた1審仙台地裁に対し、2審は一転、学校側の事前の防災体制に「組織的過失」があったと判断した。学校という組織として、子供たちを守るためにすべき災害の想定や対策が不十分だった過失を認め、1審判決から1千万円上積みした約14億3600万円の賠償金支払いを市と県に命じた。東日本大震災では各地で津波訴訟が起きているが、事前防災の過失を認めたのは今回が初めてとなる。

 さらに2審が重視したのが、児童の安全確保に対する教育行政の重い責任だ。震災当時、市が作成したハザードマップの津波浸水予想区域には大川小は含まれていなかった。しかし、2審は市のハザードマップを「結果として誤りだった」と切り捨て、こう指摘している。「教師の指示が児童生徒の行動を拘束する以上、ハザードマップについては、教師は独自の立場から信頼性を検討することが要請されていたというべきだ」。つまり、学校側には自治体などが提供する公式の防災情報以上の備えを要求したのだ。

 だが、自治体の防災行政にまで疑いのまなざしを向けつつ、教育現場で事前防災を進めることが可能だったのだろうか。

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