正論

北の交渉力を侮ってはならない 京都大学大学院教授・中西寛

 ≪核保有と経済開発が同時進行も

 首脳会談が実現するか否か、また実現したとして交渉が成功するか否かは分からない。しかし米朝交渉が決裂したとしても、アメリカが制裁強化や軍事オプションに訴えることは昨年と比べてはるかに困難になっている。中露の協力がなければ制裁は実効的とならないし、韓国もアメリカの軍事制裁には強硬に反対するだろう。

 北朝鮮がアメリカの求める完全かつ検証可能で不可逆な非核化(CVID)を原則として受け入れる可能性もある。しかし米専門家が最近示したように、CVIDを実現するには10年程度の期間がかかるから、その間北朝鮮への制裁を続けることは現実的でなく、北朝鮮への制裁緩和や平和体制への移行と同時進行にならざるを得ないだろう。

 すでに北朝鮮国内では元山市近郊での大規模リゾート開発が進んでいる。北朝鮮の核保有と経済開発が同時進行する北朝鮮の「並進路線」が促進される図式になるわけで、北朝鮮人民の間で金正恩氏に対する信望を高める効果はもつかもしれない。

 これまで国際社会は北朝鮮について多くの誤りを犯してきたが、その最大のものはその力を侮ってきたことであろう。北朝鮮の交渉力を過小評価すべきではない。(なかにし ひろし)

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