≪膝を屈したとみるのは楽観的だ≫
多くの北朝鮮専門家の指摘によれば、北朝鮮エリートは、自国に対する評価も含めて外部世界の状況をかなり正確に掌握しているらしい。今回、ボルトン大統領補佐官やペンス副大統領を名指しでなじったのは北朝鮮のベテラン外交官であり、その発言がどのような効果をもたらすか十分に計算しなかったとは考えにくい。
西側はこの発言を、首脳会談に向けて米政府内の強硬派と柔軟派の離間を図る北朝鮮の常套(じょうとう)手段と捉えたが、北朝鮮はそうした分析も予想して、さらにその先を読んでいたかもしれない。つまり、トランプ政権が強硬に反発した場合には素早く姿勢を転換して恭順の意を示し、「北朝鮮与(くみ)しやすし」と油断させて、首脳会談への動きを加速することまで想定した発言だったのかもしれない。
少し遡(さかのぼ)れば、北朝鮮が強硬な姿勢を示し始める直前に金正恩氏が大連に飛んで中国の習近平国家主席と会談したことも、偶然とは思えない。トランプ氏は北朝鮮の姿勢変化の背後に中国の影を見ているようだが、むしろアメリカが中国に疑いを抱き、米中の離間を誘うように北朝鮮の方がタイミングを計って動いたとも考えられる。
これはさすがにうがちすぎた解釈なのかもしれない。しかし昨年9月の6度目の核実験と、11月の「火星15」発射に対して構築された国際社会の結束と対北朝鮮制裁網は、今年に入ってからの北朝鮮による外交攻勢で、ほぼ完全に寸断されてしまった。
その間、金正恩氏は平昌オリンピックに妹の金与正氏を派遣し、中韓首脳それぞれと2度の首脳会談を行って理知的で如才ない姿を示し、米政府高官のポンペオ氏を2度も招いた。こうした外交活動を演出できる北朝鮮が、わずか数カ月間の経済制裁やトランプ氏の強硬姿勢に音を上げて膝を屈したと見るのは、いささか楽観的すぎるのではないだろうか。