明治の50冊

(16)松原岩五郎「最暗黒の東京」 体験ルポルタージュの元祖

 当時は東京のあちこちに貧民街が存在していた。松原は廃屋のような家々がひしめく土地を渡り歩きながら、住居から家財道具、生計の立て方まで詳細に記述。「四ツ谷鮫ケ橋」(現在の新宿区)の貧民街では残飯屋に就職し、傷んだ飯も売ってしまう商売の内幕を赤裸々に書き記す。

 貧困から抜け出すことの困難さ、社会の理不尽さなどが胸に迫る。刊行間もなく版を重ね、英訳までされたという。ルポルタージュの先駆的存在として、時代を代表する作品になっていく。

 「読んだ人々が共感するのは、今では当たり前。けれども、当時としては画期的だった」と、明治期の記録文学に詳しい三重大副学長の尾西康充さん(国文学者)は解説。当時、同種の見聞記が他の新聞にも相次いで掲載されたのも、「国民」意識の形成期と無関係ではないと指摘する。

 「封建社会では、階級が違えば関心がない。江戸末期には身分もかなり流動化するが、それでも、日本人としてこの人たちにどう手をさしのべるかという意識はなかった」

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