「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO(ザ レールキッチン チクゴ)」
平成31(2019)年春、西鉄天神大牟田線に誕生予定の、車内で食事を楽しめる観光列車です。沿線の魅力や素晴らしい資源を発掘・活用し、この観光列車を通して情報発信することで、沿線地域の活性化を目指しています。
私が観光列車プロジェクトの担当課長に任命されたのは27年の夏でした。正直、悩みました。
西鉄電車の営業キロは106・1キロメートル。沿線のみなさまの通勤通学の足として、生活に密着した路線は、旅の非日常感を味わうには、恵まれた条件とはいえません。全国に数多くある観光列車と、どう差別化し、商品として魅力あるものにすれば良いのか。そもそも、観光列車の運行が何につながるのか…。
その答えを求め、まずは調査を開始しました。観光列車に厳密な定義はありませんが、「乗ること自体が目的となるような、趣向を凝らした列車」といえます。その時点で、全国には100を超える観光列車が存在しました(数は独自調査による参考値)。大きな窓があるもの、シートにマッサージ機能が付いたもの、絶景が楽しめるもの、食事が楽しめるもの、アート鑑賞ができるもの…。車両も楽しみ方も多種多様でした。
沿線のすばらしい景色と食事が楽しめる、肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」では、お土産として沿線各地の特産品をもらい、鉄道でしか行くことのできないプライベートビーチの景色を楽しめました。車内で足湯が楽しめるJR東日本の「とれいゆつばさ」で足湯に入った後は、沿線地域の温泉に行きたくなりました。
JR四国の「伊予灘ものがたり」は、美しい景色を楽しめると同時に、心あたたまる列車でした。沿線有名店の食事、食器として使用される地元の陶磁器、スタッフが地域の方々と一緒に植えた花。通過駅では着ぐるみに身をつつみ、遠くの城からはのぼり旗を振って、列車を歓迎する住民の行動からは、列車がいかに地域の方々に愛されているかを感じ取れました。
調査を通じて感じたことが3つあります。1つ目は、通常の列車とは異なる空間や体験ができる観光列車は、ある種アトラクションとしての要素を持つこと。2つ目は、走る場所が異なれば、気候、沿線風景、産業、文化など、地域の特徴や資源も異なるため、地域資源を生かすことが商品の差別化につながること。3つ目は、地域と一緒につくり、守っていくことの重要性。
こうして、西鉄観光列車のコンセプトが決まりました。
「LOCAL to TRAIN~街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ~」
地域の良いものを列車に積み込み、その魅力を発信していきたい、物理的な移動のためだけではなく、人や物語など、色々なものをつないでいくものになりたいという思いを込めました。
西鉄電車の利用者数は、近年、横ばいや微増で少し落ち着いていますが、長期的な視点でみると減少傾向にあります。利用者数のピーク(平成4年)と比較すると、現在は約75%程度です。人口減少が進み、今後、さらに減少することも予測されます。鉄道は、大量の人を運ぶことを前提としたサービスで、線路、駅、車両など巨大な装置を維持していくために、多額の費用がかかります。人口減少とともに利用者の減少が進む中で、鉄道を維持していくのは、決して簡単ではありません。地域を活性化することの意義はここにあります。
地域資源を発掘・活用することで地域活性化を目指す観光列車への挑戦は、沿線の豊かなライフスタイルの醸成と、住みたいと思える沿線、そして、地域のみなさまに愛される鉄道への挑戦でもあると思っています。
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【プロフィル】よしなか・みほこ
西日本鉄道株式会社事業創造本部観光・レジャー事業部観光列車プロジェクト担当課長。福岡市役所勤務や大学院博士課程での研究経験を経て、西鉄に入社。博士(工学)。