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文政権の現実対応と大いなる矛盾 黒田勝弘

 左派・革新政権として文大統領の師匠にあたる盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領(2003~08年)は、政権当初は「米国を怒らせて何が悪い」とか「北朝鮮の核開発には一理ある」などと威勢よく反米・親北カラーを出して物議をかもした。

 彼も金正日(キム・ジョンイル)総書記との南北首脳会談をやっているが、最後は米韓FTA(自由貿易協定)を締結し、米国の要請に従いイラクへの戦闘部隊派兵もOKしている。後にこうした自らの変化を「実用主義」と説明している。

 ただ文大統領の場合、対話攻勢への大転換という金正恩氏の変化にうまく遭遇したという背景はあるものの、内外で称賛されている喜びの余り、このまま対北融和策という左派・革新政権の理想主義で突っ走る可能性がある。

 脱北者団体筋によると、韓国内では早くも金正恩体制打倒を主張する脱北者たちに対する当局の監視が強まっているという。大型風船による対北宣伝ビラ活動も当局によって急に阻止されるようになった。

 文政権は「非核化」で北に与える見返りは「体制の保証」だというが、その「北の体制」とは兄・叔父殺しを含む政治的、社会的暗黒の独裁体制である。したがって体制保証を前提にした対北融和策は、独裁大嫌いで人権・民主主義が大好きな左派・革新政権としては大いなる矛盾なのだ。

 そこで保守派は文政権に対し「ゆくゆく韓国を北の体制に従わせようとしているのではないか」と疑っているが、韓国国民の一般的な日常感覚では今のところそこまでは想像を超える。(ソウル駐在客員論説委員)