鑑賞眼

パブリックシアター『バリーターク』 草なぎ×松尾×小林…あくなき日常の向こう側

男3人(左から松尾諭、草なぎ剛、小林勝也)による不思議な舞台「バリーターク」(細野晋司撮影)
男3人(左から松尾諭、草なぎ剛、小林勝也)による不思議な舞台「バリーターク」(細野晋司撮影)

 □KAAT神奈川芸術劇場・世田谷

 登場人物はいったい誰なのか? ここはどこなのか? 謎のまま話が進み、やがて意外な枠組みが明かされる。アイルランド出身の劇作家、エンダ・ウォルシュ作。白井晃演出。

 扉のない広いワンルームで、男1(草なぎ剛)と男2(松尾諭)が遊戯や運動に明け暮れながら、バリータークという村の出来事を演じ続けている。そのうちに背面の壁が開いて男3(小林勝也)が現れ、2人のうち1人が外に出るのだと告げる。

 類を見ない不思議な舞台だ。と同時に、さまざまな作品をも連想させる。例えば、2人が埓(らち)もない会話を続けるさまはベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」、頭の中で架空の街の物語を紡ぐ点は村上春樹の小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。だが白井演出は、おもちゃ箱をひっくり返したような熱量とノイズを舞台にあふれさせ、乱雑な疾走感を付与した。それだけに、いつしか封印していた記憶を2人が蘇らせ、日常と非日常が反転する終盤が恐ろしい。

 草なぎと松尾が、子供の頃から部屋にいるような稚気を宿す熱演。これが伏線となる。小林は残酷さを感じさせないのが逆に不気味だ。

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