正論

人権・核廃棄なしの板門店宣言 モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授・西岡力

「平和」だけが強調された

 正式名称が「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」である宣言では本文に「平和」という語が12回も出てくる。冒頭部分には「朝鮮半島にもはや戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを8千万のわが同胞と全世界に厳粛に宣言した」とある。しかし朝鮮半島の軍事的緊張は、北朝鮮というテロ国家が核、ミサイル、生物化学兵器を開発し、韓国に軍事挑発を続け、世界中から多くの無辜(むこ)の民を拉致して帰さないことから生まれている。だから、金委員長から「核ミサイル完全廃棄と全拉致被害者帰還」という約束を取り付けることが平和実現のための唯一の道だった。しかし、文大統領はそれに失敗した。

 それなのに平和を強調するのは、米朝首脳会談が決裂した場合に軍事的緊張が高まることを予想した金委員長が、韓国政府と韓国国民に戦争反対を叫ばせて米軍の活動を抑えようとした策略かもしれない。

 本文2213字(原文)の宣言の中で核問題に言及したのはわずか148字(約7%)だけだ。そこには日本のマスコミが、金委員長が完全な非核化を約束したと大見出しで報じた「南と北は、完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」という記述が入っていた。しかし、ここで言われている「朝鮮半島の非核化」とは、すでに3月に訪中した金委員長が金日成主席の遺訓だと語ったものと同じだ。1991年に金主席が提唱した米軍撤退、韓米同盟解体をその中身とする「朝鮮半島の非核地帯化」に外ならない。だから、北朝鮮メディアも宣言を全文報じることができた。

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