かつて6者会談の過程で、ブッシュ米政権が北朝鮮に「完全かつ検証可能で不可逆的な核解体」(CVID)という原則を主張したとき、北朝鮮は「完全かつ検証可能で不可逆的な安全の保証」の下に在韓米軍の撤収を求めたが、その当時、北朝鮮はグアムのアンダーセン米空軍基地に対する攻撃手段を欠いていた。
だが、北朝鮮は16年6月、最大射程4000キロと推測される中距離弾道ミサイル「火星10」(「ムスダン」)の発射成功で、グアムを射程に収める潜在的能力を手に入れた。先の政府代弁人声明が「火星10」発射成功の直後に発せられたのは、そこでいう朝鮮半島の「周辺」がグアムを指すことを改めて傍証していた。そして、その能力は昨年複数回発射された中距離弾道ミサイル「火星12」で拡充し、それを含む核戦力を北朝鮮はいま「宝刀」と称する。
≪非対称の「取引」には応じるな≫
しかし、北朝鮮が試みる「取引」は、「等価交換」ではない。冷戦構造とは文字通り、冷戦期に築かれたものであり、北朝鮮はその当時、核兵器も弾道ミサイルも保有していなかった。北朝鮮の核放棄と「等価交換」となりうるのは、過去の米朝協議、6者会談で議論されたように、核不拡散条約(NPT)の不平等性を補填(ほてん)する「安全の保証」-核兵器国は非核兵器国に核の使用、威嚇を行わない誓約-であり、日本と韓国を危殆(きたい)に晒(さら)す冷戦構造の解体であってはならなかった。