ロシアの文豪から世界の若者へのメッセージ トルストイ生誕190周年に考える 作家・翻訳家 ふみ子デイヴィス氏

「反戦の英雄」

 18世紀半ばにウクライナ地方に生じたドウホボールは、ロシア正教の儀礼と儀式を否定し、禁欲、不殺生を実践した宗教団体だ。

 19世紀後半、彼らは国家に対する不服従運動を起こした。皇帝も国家も教会も認めず、徹底平和のために兵役も拒否するという、政府にとって厄介な存在となっていた。

 弾圧を繰り返す政府に対して「非暴力の無抵抗」という抵抗を繰り返し、社会的にも大きな波紋を広げていった。犯罪集団ではないだけに、さらなる弾圧を加えれば国際世論も敵に回しかねない。苦境に立たされた政府はついに、彼らのカナダ移住を認めた。

 トルストイはドウホボールを「(戦争反対の戦いの)英雄だ」と評価。著作権放棄の決意を翻し、『復活』と『神父セルギー』をフランス、英国、ドイツの出版社に売ることにした。交渉にはトルストイの長男セルゲイが携わった。

 その結果得た1億円を超える資金でドウホボールの6500人はカナダに移民。セルゲイも付き添い、彼らの無事を見届けた。現在に至るまでドウホボールは、カナダのサスカチェワンとブリテイッシュ・コロンビア地方で農業を営み、豊かな発展を遂げている。

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