浅田次郎さん「長く高い壁」 双方宣戦布告ないままエスカレート… 不可解な日中戦争の謎を解く

 昭和12年夏に偶発的衝突から始まった日中の紛争は、事実上の戦争状態となりながらも、双方の宣戦布告がないままエスカレートしていった。中国を敵としながらも、中国人は敵ではないという曖昧な戦争下で起きた不可解な事件の謎解きを進めるうちに、軍隊という巨大な官僚組織の非情な論理や、その中で各個人が示す保身や義侠(ぎきょう)心が浮かび上がる。敵か味方かの境界すら怪しくなっていく不明瞭な戦場を巧みなストーリーテリングで描くことで、日中戦争という奇妙な戦争の本質に迫っていく。

 「作中人物にとって、戦争は天に代わりて不義を討つものでなければならないはずなのに、実際に戦地に行ったら明確な戦争目的も何もなかった。これは、当時の将兵たちの実感だったのでは」

 軍隊の雰囲気や戦場の空気感は、現地取材や資料調査を重ねて実にリアル。戦後生まれの浅田さんだが、戦争文学全集『戦争×文学』(集英社)の編集に携わるなど、戦争を題材にした小説への思いは深い。

 「日本の戦争文学は自然主義文学の伝統を受け継ぎ、人間の苦悩を描く優れた作品が多い。そうした先人たちの魂を忘れずに、これからも戦争文学を書きつなげていければと思うね」(磨井慎吾)