昭和13年秋の中国北部。日本軍占領下の万里の長城で、守備に就く陸軍の1個分隊10人が戦死とは思えない不審死を遂げる。謎を解明すべく現地に向かったのは、従軍作家として北京に滞在していた探偵小説家だった-。作家、浅田次郎さん(66)の最新作『長く高い壁 The Great Wall』(KADOKAWA)は、日中戦争を舞台にした異色の戦場ミステリーだ。
『蒼穹(そうきゅう)の昴(すばる)』シリーズをはじめとした歴史小説から直木賞受賞作『鉄道員(ぽっぽや)』などの現代ものまで、多彩な作品を手がけてきた浅田さん。『終わらざる夏』など太平洋戦争を題材にした小説も折に触れ発表してきたが、日中戦争を正面から描くのは初めてとなる。
「戦争に関する本は昔から読んできたが、一番理解できないのが日中戦争。何のために始まり、なぜ終わらず、どんどん戦線が拡大していったのか。この訳の分からない戦争は、ミステリー仕立てとするのにもってこいの題材だと思った」