前書きに「母の詞自ら句になりて」とあるように、正岡子規は母親の口癖をそのまま俳句にした。「毎年よ彼岸の入りに寒いのは」。春のお彼岸だが、冬に逆戻りしたようだ。春分の日の昨日も冷たい雨で、近くの霊園は訪れる人がまばらだった。ハクモクレンが満開になっていた。
▶文筆家一家の日常を淡々と描いた三浦哲郎の「素顔」に、こんな場面がある。高熱を出して寝込んだ少女が「白木蓮の花がみんな白い蝶蝶になって、どこかへ飛んでいく夢」を見る。夢からさめると、熱がなくなっている。なるほどハクモクレンの花は、白いチョウが枝に止まっているように、半開きで天を向いて咲く。
▶よく同じモクレン科のコブシと間違えられるが、コブシは開いて咲き、花の向きもまちまちである。上を向くと日和がよくて豊作、下向きは雨年で、横を向くと風年など、天候や豊凶の占いに用いられた。さて今年はどうだろう。開花した桜もすぐに見ごろになる。