「コーヒーを飲んで休憩中、グラッと揺れた。激しい地震だった。カメラをつかんで外へ飛び出した」
平成23年3月11日。東日本大震災発生。浦安市入船の番組制作会社「クリフラップ」代表、篠塚良雄さん(60)はカメラを構え、街頭に立った。
「ヒュウ ヒュウ ヒュウ」。不気味な音が響く。大地がゆらゆら揺れていた。電柱が傾く。ビルがきしむ。ガラスが割れた。猫が驚き、一目散に走り去った。「あっ、子供がいる」。女性が幼児を抱きかかえ、避難した。道路に亀裂が入る。濁った水がどんどん噴き出した。
篠塚さんは「なんじゃこれって感じでした。自分が逃げるより、撮影して記録する。カメラマンの習性です」と振り返る。
スタッフ6人が3班に分かれ、取材に走った。大震災で起きた液状化被害の惨状を撮影し、記録した。
映像の一部は浦安市立中央図書館が運営する「浦安震災アーカイブ(記録保管所)」で閲覧することができる。
「言葉や文字でなく、実際に動く映像を見て、教訓にしてほしい。大災害に対する心構えができれば、被害も減るのでは」と篠塚さんは語る。
浦安市は市域の86%に及ぶ範囲で地盤の液状化現象が発生した。被災したのは約3万7千世帯、被災者は約9万6千人に達した。道路や上下水道、電気、ガスなど都市基盤が深刻な被害を受けた。
市は、浦安震災アーカイブを27年7月から公開している。約4万点の震災関連資料をインターネットで閲覧することができる。
多くの体験談が収録されている。「道路から水と泥が噴き出した。近くのホームセンターの敷地が動いた。標識や街灯が傾いた」(70代男性)「台所の食器棚が倒れた。食器が飛び出し、床に破片が散らばった。気に入った食器だったのでショックだった。耐震対策をしていなかったのが悔やまれる」(60代女性)「大きな余震が来てもすぐ逃げられるようリビングに布団を敷いて寝た。弟たちは余震の怖さで吐いた」(10代男性)。「給水所に水をもらいに行った。順番待ちして目の前で水がなくなった。とてもショックだった」(60代男性)
震災によって地域の絆も生まれた。「庭と玄関先にたまった泥をかき出す。非常に重かった。近所の人が手伝ってくれた。うれしかった」(70代女性)「マンションの自治会で助け合って随分と心強かった」(40代女性)
中央図書館職員の居倉英夫さん(50)は「夏休みに小学生らを対象にした防災教室を開き、アーカイブを活用している。映像の力は強い。子供たちは『浦安がこんなになったんだ』と驚く」と語る。
副館長の加藤竜治さん(58)は「地下の書庫では約8万冊の本が棚から落下、散乱した。手のつけようがなかった。あの震災を風化させてはいけない。アーカイブの映像や写真、文書をごらんになって防災意識を高め、しっかり備えをしてほしい」と呼びかけている。(塩塚保)=おわり