日曜に書く

裁量労働制は不要なのか 論説委員・井伊重之 

 まさに失態としか言いようがない。

 「働き方改革」を最重要課題に掲げる安倍晋三政権が、その目玉と位置付ける裁量労働制の対象職種の拡大をめぐり、国会答弁で不適切な統計データを用いて法案提出の撤回に追い込まれた件である。

 大臣の失言やスキャンダルなどで法案が成立断念に追い込まれたり、国会戦術の一環で法案提出を見送ったりする事例は過去に何度もあった。だが、今回は政府の法案説明に使った統計データが誤りだったとして首相が国会答弁を撤回した揚げ句、法案の国会提出も先送りされた。前代未聞の事態だ。

 この法案に対して野党は以前から強く反発し、3年も国会審議が棚ざらしにされていた。今回の不適切データによる説明も3年前に用意され、これまでも大臣の国会答弁で使われていたというから驚くばかりだ。答弁を作成した厚生労働省は統計データを検証することもなかった。その責任は重大である。

 ◆明治の「工場法」に源流

 ただ、そもそも裁量労働制とは、労働時間の短縮を目指すものではない。限られた時間の中でいかに効率よく働くかを促す制度のはずだ。答弁のデータが間違っていたのは論外だが、その説明が意図した方向性にも大いに問題があった。

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