□微量の血液で可能、医療改革目指す
■米シカゴ大・中村教授「民間主導でよりスピーディーに」
全遺伝情報(ゲノム)を活用して個々のがん患者に合った早期診断などを提供する「キャンサー・プレシジョン・メディシン」(CPM)=川崎市、森隆弘社長=が4月に本格的に稼働する。遺伝医学の権威、米シカゴ大の中村祐輔教授が6月に同大を辞職し、CPM社に参画する予定。微量の血液採取によって再発がんの早期診断を提携病院と共同研究で評価するなど新しい方法を手がけ、がんの医療体系の改革を目指していく。
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「治療が困難になったがん患者さんはただ死を待つだけなのか。救うことができるかどうか、プレシジョン・メディシンに大きな可能性がある」
川崎市の臨海部、殿町国際戦略拠点「キング スカイフロント」に設立されたCPM社のクリニカルラボ(研究所)の開所式が行われた13日、一時帰国した中村教授はこのように語った。CPM社は中村教授が顧問を務める創薬ベンチャー、「オンコセラピー・サイエンス」(川崎市)と遺伝子解析で知られる韓国の「テラジェン・イテックス」が昨年、設立した合弁会社だ。
プレシジョン・メディシンはゲノム情報を解析して個々の患者に合った治療法などを提供する取り組みだ。がんは遺伝子の異常によって生じるため、診断や治療法を確定する過程でゲノム情報を解析すれば、がんの治癒率を高める可能性がある。
CPM社はその実現に向けて、(1)血液・唾液・尿を利用する新しい診断方法「リキッド・バイオプシー」の実施(2)がん再発の早期発見と早期治療(3)適切な治療薬の選択(4)新規のがんの治療薬開発-の4本柱を掲げる。
(1)のリキッド・バイオプシーは微量の血液などからがん細胞から遊離したDNA(cfDNA)を検出する。これによって、がんのスクリーニング率を向上させ、画像に映る前の段階でがんを早期診断することに役立てる。
(2)はリキッド・バイオプシーのデータを基に再発がんを早い段階で発見し、早期治療につなげる。
(3)は塩基配列を同時並行的に読み出せる次世代シーケンサーを駆使して適切な分子標的薬の選別などを行う。
(4)は個々の患者向けに新規の免疫療法を開発する。がんに特異的な抗原を利用する「ネオアンチゲン療法」なども開発する。将来的にはオンコセラピー・サイエンス社の創薬事業にもつなげていく。
ゲノム医療をめぐって日本では14日、がんのゲノム医療を提供する中核拠点病院11カ所が決定した。ただ、ゲノム医療の切り札の一つ、リキッド・バイオプシーの導入は米国では一部のがんで認可されているが、日本は遅れている。この検査などを希望する患者は今後、IMSグループ(板橋中央総合病院グループ)の病院を受診して相談することになる。
中村教授は「日本の取り組みは米国で5年以上も前に議論された内容だ。それでは待ち切れないがん患者さんは少なくない。ゲノムの解析技術も急速に進んでおり、民間主導でよりスピーディーな医療改革が求められている」と話している。