当時のエロ本は、ゴチャゴチャと下品に作ったものが売れるというのが常識でしたが、僕はスマートな本を作ろうと思いました。自分の好きな人に原稿やイラストが頼めるのは編集者の特権。月刊「ガロ」(アングラ色が強く一部から熱烈に支持された漫画誌)の「赤色エレジー」が大好きだった林静一さん、作家の田中小実昌さん、嵐山光三郎さん、赤瀬川原平さん、イラストは吉田光彦さん、南伸坊さんなどサブカルチャーを代表する方々にお世話になりました。ギャラはそんなに払えなかったけれど、文句をいわれたことはありませんでした。エロには遠そうな評論家の平岡正明さんにバックナンバーを見せたら、「分かった!」と。「体力論精力篇」という難しい論文を書いてくれました。
特に印象深かったのが写真家の荒木経惟(のぶよし)さん。もともと大ファンでした。電話で原稿と写真を依頼したら「いいよ」って。都電荒川線に乗って東京・三ノ輪まで会いにいくと、荒木さんがジーパンにゲタでカラカラ歩いてきました。喫茶店で原稿をもらい、すぐにカバンにしまおうとしたら「読まないの?」って。編集者のしきたりも知らずに走り出していたんです。預かった写真は、銭湯の煙突が白い煙を出している面白いパノラマショットで、「地球がたばこを吸っている」というキャプションに一気に緊張がほぐれました。
(聞き手 重松明子)