「学者」に対する筆者の思いは複雑だ。修士・博士号など興味はないし、今でも学問より実務経験を重視する。一方、特定領域を辛抱強く集中研究できる彼らの能力には脱帽だ。飽きっぽいし、高校時代から理科系は、からきし駄目だった。物理であれ、生物であれ、自然科学者には畏敬の念すら抱く。こんな筆者が最近危機感を覚えた。旧知の学者3人の言動を見聞きし、日本の人文科学が迷走を始めたのでは、と危惧するのだ。
発端は先般某国立大学教授からもらったメールだった。文面はこうである。
●来年から彼の大学の人文社会系がビジネス科学系と合併することが決まった。
●哲学、文学、経済、政治、国際関係などの教員全てがビジネス科学と一緒になる。
●グローバル市場に対応する先進的リーガルマインドの人材を育てる趣旨だという。
●対等合併とはいえ、人文系の地盤沈下は不可避だ。こうした急展開は恐ろしい。
●この傾向は他の国立大学にも及ぶだろう。既に私立大学に逃れる者が出ている。
さすがの筆者もこれには驚いた。彼は東洋政治思想史に詳しい政治・歴史学者、筆者の畏友の一人だ。彼は、ネット時代に「知の在り方」が変わった、旧態依然の人文社会系は不要かもしれぬと嘆く。だが、本当にそうなのか。