「ローエングリンは気高い騎士ですが、自らは争うことを望んでいません。彼は戦わない英雄として登場し、去っていきます。それはワーグナーがしたためた美しい音楽にも表れています。勇壮なファンファーレに耳を奪われがちですが、優美な旋律は平和の祈りに満ちています」と深作は作品の魅力を語る。さらに「世界中で平和が脅かされている今だからこそ、ローエングリンのような英雄に思いを強くします」と言葉を続ける。
ローエングリンは処刑されたキリストの血を受けた聖杯を守る騎士で、弟殺しのぬれぎぬを着せられた公女、エルザを助けようと白鳥とともに現れる。エルザはローエングリンに名も身分も問わないとの約束を交わすが、公国をわがものにとする伯爵夫妻の計略にかかって禁断の問いを口にし、2人は永遠の別れを遂げる。
ワーグナーに心酔し、手厚い支援を行ったルートビヒ2世は、ドイツの統一と国威伸長が展開された時代に南部ドイツの大国、バイエルンの王でありながら美の探究にふけり、中世趣味の粋を施したノイシュバンシュタイン城にはワーグナーの世界が再現され、自身はローエングリンになることを夢見た。