日産自動車が「考える」だけでクルマを運転できるシステムの研究開発に取り組んでいる。脳波を読み取ることで手足の動きよりも素早くクルマを動かせるというが、実現すれば運転体験はどう変わるのか。そのシミュレーターを体験した『WIRED』US版記者のレポート。
日産自動車の運転シミュレーターに座りながら、わたしは研究者やエンジニアたちのグループに細かく観察されることを覚悟していた。彼らは横からうるさく運転に口を出してくる同乗者よりもさらに厳しく、運転技術をチェックするのだろう。そして、わたしは11個もの電極がついた小さ過ぎる自転車のヘルメットのようなものをかぶらなければならない。
日産の研究者でこの装置の責任者でもあるルチアン・ギョルゲが、「それぞれのカーヴでどれだけスムーズに運転できているかが評価されます」と説明してくれる。くすぐったい電極は、脳波という脳内の非常に微小な電気信号を測定するために取り付けられたものだ。
ギョルゲの研究分野は、運転中に脳が身体を動かすために発信する特定の脳波のパターンである。身体が脳からの電気信号を変換し、腕や足を実際に動かすのには0.5秒かかる。日産はその隙を突きたいというわけだ。
身体より「0.5秒」先にクルマを動かす
わたしが右に大きく曲がるつもりだとコンピューターが察知できれば、わたしの腕がハンドルを切る前にタイヤを動かせる。高速で走行している場合、本当にわずかな時間がものをいう。0.5秒あればセーフティーシステムを作動させるには十分で、結果として安全で円滑なドライヴィングにつながると期待されている。
日産が1月にラスヴェガスで開かれた家電見本市「CES」に出展した運転シミュレーターには、ドライヴァーが座るシートとハンドルはあったが、足元のペダル類はついていなかった(走行速度はコンピューターが管理する)。目の前にある3面のワイドスクリーンには、ノルウェーの山道の景色が全方位に近い広がりで映し出されている。
そのクルマが走り出す前に人工の景観に見とれる暇はなく、ハンドルの感度に慣れるのにも時間がかかった。対向車線にはみ出そうになると、進行方向から別のクルマが向かってくる。ギョルゲが「そっちはダメですよ!」と注意する。
とっさに身を引いたが、コンピューターはこうした動きをすべて検知しており、わたしの脳波と動作とを比べて学んでいく。コンピューターがわたしをテストしているのが感じられるのだ。
頭上の大きなスクリーンには、日産が「Brain-to-Vehicle(B2V)」と呼ぶ脳波測定を利用した運転支援技術を説明するグラフィックが表示され、グレーな脳内の動きがカラフルな図で示されている。わたしが動こうとすると、スクリーンに表示された脳の上の方にある運動皮質と呼ばれる領域で赤い点が光った。ギョルゲは「足の動きはそこ、腕はそのちょうど隣の部分でコントロールしています。ですから、わたしたちは常に脳のこの部分を注視しています」と話す。
運転がもっと“スマート”になる
コンピューターがわたしの考えていることを知っているというのは少しばかり不気味だが、少なくともシミュレーターの使い心地は悪くない。システムは圧迫感がないような設計になっているし、ヘルメットもかぶりやすいように調整されている。
以前は電極の数が64個で、脳波を伝えるためのジェルが中から漏れてくるシャワーキャップのようなものだった。現行の脳波測定機は、柔らかなゴムのコードで固定されたピンがいくつか頭に触る程度のものだ。