佐藤さんらは、敏感で反応の早い板を目指し、06年トリノ五輪の後から湯浅が使う板の芯にメタルを入れ始めた。強度を維持したままねじれやすくするためで、メタルの枚数を増やすことで強度を上げる一方、14年のロシア・ソチ五輪の時と比べ80グラム以上の軽量化も実現した。
大嶽さんは「アルペンは道具によるところの大きな競技で、勝てないのは板のせいともいえる。1日の半分以上は板のことばかり考え、寝ていても板が折れる夢を見る」といい、湯浅の板に改良を加えてきた。湯浅は結果が出ないと「申し訳ない」と工場スタッフに伝える。少人数であるだけに、その言葉が工場全体に意欲をかきたてるのは、分業体制がほぼ確立された大人数の欧州メーカーにはないメリットかもしれない。
今シーズンの湯浅は左膝の状態が悪くワールドカップ6戦で一度も30位以内に入れなかったが、五輪代表に選出された。回転は2回の合計タイムを競うが、天候や会場の状態で結果は大きく左右され、コースとの相性によってWC下位選手でも上位に躍り出ることはある。平昌の会場は、強い傾斜で起伏が少なく、超ハードバーンで湯浅が得意とするコースともいわれ、強い期待がかかる。
工場では、これまで蓄積したデータをもとに湯浅にぴったりあった板を製作した。トヨタをはじめ中部圏は製造業の技術集散地として知られるが、御嵩町の小さな工場が欧州の伝統メーカーにどこまで迫れるか。五輪での見どころの一つだ。