スキー業界では、五輪やWCで上位入賞者が履いた用具に圧倒的な人気が集まり、売り上げに大きく影響する。このため、欧州の有名メーカーは数十人から百人規模のチームを編成し、トップスキーヤーに帯同させ世界を転戦。各国のゲレンデの雪質や天候の変化など多くの情報を蓄積し、伝統的な職人芸に裏打ちされた技術で高品質の用具を進化させている。
業者間の競争は熾烈で、アルペン競技の会場では、ライバル社の選手の用具の形状や構造などの情報をなんとかして入手しようと躍起になる姿が見られる。一方、自分たちの機密は漏らさないように、試合で使用する板をスタート直前までトレーラーに格納することもあり、華やかなレースの裏では激しい駆け引きが繰り広げられている。
オーダーメードに強み
そんな世界に参入した湯浅の「ハート」を作る御嵩町の工場は、名古屋市の北東へ車で1時間ほど走った山間地にある。かつて「ヤマハ」が所有し、競技用板の製造技術を引き継いだ工場でもある。
湯浅の板にかかわるチームメンバーは10人ほど。欧州の主だったメーカーは板の開発、製造などを外注してブランドに集める生産方式だが、「ハート」では材料の調達から板の骨格やエッジの設計、成形、製造まで御嵩町の工場で一貫して行う。欧州メーカーは、人気の高さから多くの有名選手を抱えているため分業でないと生産が追いつかない事情があるのに対して、ハートを使う世界的なレーサーは湯浅だけで、オーダーメードが保たれているともいえる。