正論

貴乃花は「忠実義務違反」なのか 印象操作のため概念が利用された印象強い 早稲田大学教授・上村達男

 私は貴乃花親方は不当な扱いを受けたと思っており、法的には十分に争う余地があると思う。が、ここではこの問題の帰趨(きすう)よりも、忠実義務という日本の社会にとってきわめて重要な概念が非常に軽い扱いを受けることで、他人の財産などを預かる者に課せられている重い責任への関心と理解が妨げられる事態を恐れる。

 日本では、この忠実義務やこれと一体の受託者責任(fiduciary  duty)というもっとも重要な概念への言及が少ない一方で、順守することが強制されない軽いルールであるスチュワードシップ・コード(受託者責任を果たすための行動原則)などが盛んに論じられているため、そうした危惧の念はさらに大きい。

≪責任の概念が異なっている≫

 ところで人が人に義務を負ったり責任を追及したりする場合の根拠は両者の合意、つまり契約であることが多い。ここでは対等な市民同士の関係が想定され、一方が他方に事務を委任する場合には、事務を履行すべき者は一定の注意を尽くすべき義務、これを法律用語では善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)という。

会員限定記事会員サービス詳細