東日本大震災で約800人が犠牲となった宮城県名取市の閖上地区で震災を伝える「閖上の記憶」が施設存続に向けた取り組みを始めた。商業施設「ゆりあげ港朝市メイプル館」近くへの移転に伴い、施設のプレハブ購入費用をクラウドファンディングで募っている。運営するNPO法人「地球のステージ」の武田絵莉香さん(27)は「震災に向き合い、教訓を伝承するためにも、助成金に頼らず自立した上で恒久的に残していきたい」と話す。(塔野岡剛)
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施設は震災で犠牲になった閖上中の生徒の慰霊碑を管理するために誕生。日和山公園近くにプレハブを構え、震災学習や地域住民が語らう場としても活用されてきた。
移転を余儀なくされるのは今春。名取市が災害危険区域として区画整理事業を行うため、設立当初から2年間で移転する予定だった。しかし、事業の進捗(しんちょく)の関係で移設が1年間延長され、今春となった。
「本来なら行き場を失っていた。さまざまな人の力をもらいながら新天地で活動を続けていく」と武田さんは話す。
◆プレハブ購入費
移設に伴って、施設は活動拠点となるプレハブの購入に踏み切る。現在構えているプレハブの賃料負担が大きいため、購入を決断したという。その費用集めの方法を模索し、今月1日からクラウドファンディングによる費用集めを始めた。目標金額は250万円で、3月31日まで募集している。
同じく震災の伝承活動などを行っている公益社団法人「みらいサポート石巻」が昨年、施設の移転と拡充の際にクラウドファンディングで資金を募ったことにならったという。
武田さんは「前例があったからこそ道筋が見えた。インターネットの力を信じて、幅広い支援を期待している」と協力を呼びかける。
クラウドファンディングにはもうひとつの狙いがあるという。
施設が震災の記憶の伝承活動を担っているということを広くアピールすることだ。武田さんは「震災に向き合い続けていくことが大切。伝承活動をやめてしまえば次の命を守ることはできなくなる。活動を続けていくことが大切だ」と話した。
移転が決まっているものの、移転先の「ゆりあげ港朝市メイプル館」近くでの活動は1年間限定。その後の移転先はまだ決まっていない。次の移転先として、現在の日和山公園近くを希望しているという。
◆伝承を恒久的に
武田さんは「慰霊碑を見守ることなどの条件が整っている。そこへの移設を実現して、自立した活動を続けていくためにもプレハブの購入費が必要だ」とクラウドファンディングの意義を強調する。名取市とも移転先探しについて連携を取っていくとしており、同市政策企画課の垣内徹係長も「所有者が管理の難しい土地を紹介していきたい」と話した。
震災の記憶の伝承を恒久的に行うことのできる場所の存続。それはクラウドファンディングという手法が奏功するかどうかにかかっている。震災発生から間もなく7年。「閖上の記憶」に限らず、維持が難しくなってきた施設も少なくない。今回の取り組みは、そうした施設の存続についての試金石にもなりそうだ。
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【用語解説】クラウドファンディング
英語で「群衆」を表す「crowd(クラウド)」と「資金調達」を表す「funding(ファンディング)」を合わせた造語で、インターネットを通じて不特定多数の人々から資金を募るもの。東日本大震災の被災地復興支援をはじめ、さまざまな場面で、資金調達の方法として用いられている。