暗殺に怯える習近平
さらに金王朝には、いざという時の奥の手--亡命という道も残されている。核シェルターのみならず、中露の国境につながる複数の「秘密の地下通路」の存在が、以前から噂されている。これに対し、北京の中南海にも核シェルターがあることは周知の事実だが、大国の中国では、一党独裁とはいえ習主席とその一族だけが亡命する選択肢はないに等しい。
その上、真偽は別としても習主席の暗殺未遂事件は、この五年で九回ほど報じられている。二〇一二年三月には、周永康らが胡錦濤国家主席、習副主席らに対し、武装警察を使い暗殺計画を実行したことが報じられた。さらに同年九月上旬、ヒラリー・クリントン米国務長官が訪中した際に、国家主席への昇格が決まっていた習副主席はヒラリー長官との会談をドタキャンした。
雲隠れした謎の十数日……。習副主席はプールで泳いでいて背中を痛め、中国人民解放軍総医院(通称、北京301病院)に入院したとされるが、「周永康らによる暗殺未遂」との説が依然、飛び交っている。「入院先で毒入り注射による殺害未遂もあった」という情報のおまけ付きだ。
前述の香港滞在時は、保安当局や警察当局が安全保障レベルを最高級の反テロ厳戒態勢に引き上げ、機動部隊や特別警務部隊など、八千人から一万人規模の精鋭部隊が投入された。香港も習主席にとって危険極まりない地域といえる。
昨年六月には武装警察の幹部らの大幅入れ替えが行われたが、元旦からは武装警察の指揮権を習主席がトップを務める中央軍事委員会に一本化する体制に変わった。周永康に近い武装警察が多数を占めていたことから、組織を信用できないのだろう。
十二月二十四日には、腹痛を訴えた習主席が、物々しい厳戒態勢の中で検査のため301病院に緊急入院したことも報じられた。「度重なる暗殺未遂への心労」「中南海に専門医を呼ばず入院したのは腹部の負傷など、シリアスな理由があるのでは?」など、様々な憶測を呼んでいる。事情通は、「この度は、中南海の車寄せで習主席の近くに止まっていた別の車が爆発した」という。つまり、習主席は、中南海にも暗殺を試みる敵が入り込んでいることに怯え、301病院への入院を決めたというのだ。
反腐敗運動の名目で親北朝鮮の江沢民派の大物を次々と粛清し、「兄弟関係」だった金王朝とは史上最悪の関係になった習主席。隣国の核ミサイルや生物・化学兵器の脅威にも震えているはずだ。暗殺を最も恐れているのは、外遊もせずモグラ生活を送る金委員長ではなく、大国で独裁が機能せず国内外に「敵」だらけの習主席ではないのか。
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河添恵子(かわそえ・けいこ)氏 昭和38(1963)年生まれ。名古屋市立女子短期大学を卒業。北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学後、作家活動を開始。主に中国問題、台湾問題を中心に取材を続ける。著書多数、最新の共著『中国・中国人の品性』(WAC BUNKO)も好評。
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