国際情勢を分析している米調査会社「ユーラシア・グループ」は一月二日、「今年の十大リスク」を発表し、最大のリスクとして中国を挙げた。北朝鮮の非核化への突破口が見つからず、米国が国際社会との軋轢を強めていくことは、さらなる影響力を行使したい中国のチャンスにつながるとの警鐘とも受け止められる。
米国との関係が微妙になると、日本に(不気味な)微笑み外交を展開する中国。だが、北朝鮮が依然、主役という忌々しい国際情勢をぶち破りたいからか、南北会談の二日後の十一日、沖縄県・尖閣諸島周辺の接続水域内に潜水艦と中国海軍艦艇が入域。いきなりジャブを打ってきた。日本政府も経済人も、目を覚ますべきだ。
北朝鮮の「千年の敵」は中国
米韓関係の分断や、核ミサイルの実戦配備に向けた時間稼ぎなのだろう。北朝鮮から韓国への呼びかけにより、二年一ヵ月ぶりに開催された南北会談の議題は、二月の平昌冬季五輪に代表団などを派遣する話だったが、米中露そして日本も、その暫定的な雪解けムードを歓迎した。
南北会談が始まった一月九日についてだが、たまたまこの日だったのだろうか? というのも昨年九月、北朝鮮による六回目の核実験を受けて国連安全保障理事会で決定した制裁決議に便乗した中国商務部(省)は、「制裁決議の採択日から百二十日以内に、北朝鮮の個人・団体が中国に設立した合弁企業や全額出資企業の閉鎖を命じる」「中国企業が北朝鮮の個人・団体と共に、中国以外で設立した合弁企業も閉鎖対象」との通達を出した。
この「百二十日以内」のデッドラインは一月九日だった。金正恩・朝鮮労働党委員長は「習政権との決別」「朝鮮半島のことは我々朝鮮人で決める」との主体思想で、南北会談を同日に決めたのかもしれない。北朝鮮メディアは「民族自主」「わが民族同士」の原則と「外国勢力排撃」を連日、主張している。
そもそも、北朝鮮にとっての「千年の敵」は、米国や日本ではなく民族浄化を続ける中国なのだ。朝鮮民族は満州人、ウイグル民族、モンゴル民族、チベット民族、そして在中国の同胞の悲劇や差別を熟知している。
しかも、核・ミサイル開発に心血を注ぐ北朝鮮への資金源を断つべく、中国を含む国際社会は厳格な制裁に乗り出しているが、「完全な遮断」は無理難題である。年末にも(中国外交部は否定したが)、中国の船舶が海上で北朝鮮の船舶に石油を供給していたことが報じられ、国籍を偽装した船の存在も指摘されている。中国東北三省の市場には、輸入規制をしたはずの北朝鮮産のカニなども出回り、瀋陽にある北朝鮮系レストランの営業は依然、続いているという。
順法精神のカケラもない中国社会では、規制が強まれば、「上に政策あれば下に対策あり」の慣習から、抜け穴を見つけての裏技、裏経済のスキームが発展する。北朝鮮も同じで偽装、闇ルートが常態化し拡大していく。ロシアも似たり寄ったりである。
挙げ句、皮包公司も暗躍している。事務所・資本・人員がおらず事業活動の実態がない幽霊会社(ペーパー・カンパニーやダミー会社などと言う)のことで、英語ではその他シェル・カンパニー(空殼公司)やフロント・カンパニーなどとも記される。その存在自体は合法だが、不法資金の助成やマネーロンダリング(租税回避)、所有権隠蔽など悪用されていることが多い。
米国の複数のシンクタンクは、北朝鮮との間で緊密に連携する企業は、中国に三百社以上、香港にも百社以上あると推測している。米ワシントンD.C.の金融制裁分析の専門会社サヤリ・アナリティックスも、「百社を超える香港企業が北朝鮮の制裁対象と関連がある」とし、専門家らは「これらの企業は社主や役員を共有するなど、大規模な北朝鮮ネットワークの一部として運営されている」「香港が北朝鮮の中心的な資金流入の経路」「正体と国籍を隠そうとする北朝鮮にとって香港はうってつけ」と解析している。
香港をめぐる権力闘争
北朝鮮との違法取引により、二〇一六年九月に摘発され、馬暁紅董事長兼総経理らが金融制裁を受けた、「丹東市百強企業」の超有力企業の鴻祥実業発展は「十三社のペーパー・カンパニーを香港に設置」と報じられている。中朝の一部は、中国が統治する「一国二制度」の香港を重要な拠点としてきたことが分かる。
内外の有識者らは「中国共産党がこの二十年来、香港行政にたえず介入し、今や全面的に管理統治権を握っている」と解析しており、中国政府に批判的な香港の民主活動家らの拘束も続く中、中国当局が北朝鮮の核・ミサイル開発に関与する闇企業の存在を知らないはずがない。それどころか幇助や公安がみかじめ料を徴収するなど、表裏で連動していると考えられる。