信州ワイド

ベアドッグ「後継者」安定確保へ 軽井沢のNPO法人、繁殖に着手

 軽井沢町の山々に生息するツキノワグマを「ベアドッグ」がほえ立てて追い払い、平穏な街の暮らしを守る-。人間とクマの共存を目指すNPO法人「ピッキオ」(同町)が、ベアドッグを繁殖させる取り組みに乗り出した。今いる雌の「タマ」に雄のパートナーを迎え入れ、活動を引き継ぐ「後継者」を安定的に確保する。繁殖させて訓練まで手がけるといい、日本では過去に前例のない試みだ。順調にいけば3月に何頭かの子犬が誕生する。(松本浩史)

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 ■「相性よさそう」

 ピッキオには、タマのほかにも兄弟犬で雄の「ナヌック」が活動している。だが、先天的な異常のある子犬が生まれては大変なので交配させるわけにはいかず、米国のベアドッグ育成機関「WRBI」から雄の「リオ」をパートナーに選んだ。

 ともにロシアとフィンランドの国境地帯にあるカレリア地方原産の犬種で、人里に現れそうなクマがいたら、ハンドラー(飼育士兼訓練士)の指示の下、一定の距離を保ちながらほえ続け、山奥に追い払う能力にたけているとされる。

 タマは3歳で体高54センチ、体重25キロ。リオの体高は58センチ、体重30キロ。年齢は4歳。「年齢相応の標準的な体形」(ピッキオ広報)だという。

 リオの来日時期はタマの発情期にあわせた。タマがリオを受け入れなければ交配はままならないが、タマのハンドラーを務める田中純平さんによれば「相性はよさそう」とのこと。今月中に交配が行われれば、3月には子犬が誕生し、人間や、自動車など日常生活の音に慣れさせる初期訓練を7月に始め、来年5月になればタマやナヌックと実践的な追い払い活動の訓練に入る。

 ピッキオでは繁殖プロジェクトを進めるに当たり、繁殖小屋を完成させ、周囲を柵で取り囲みドッグランを建設した。カレリア犬の出産頭数は平均で約6頭。多いときだと約10頭になる。ドッグランを子犬が走り回り、母親になったタマが遠巻きに見つめる。そんな光景を目の当たりにできそうだ。

 ■訓練まで自前で

 繁殖プロジェクトを本格化させたのは、現役犬のタマの「後継者」を自前で育て上げる必要に迫られているためだ。

 もともとタマとナヌックもWRBIからやってきた犬。初代の雄犬「ブレット」が平成25年に亡くなった約2年後の27年から軽井沢で活動していて、ベアドッグとしては2代目に当たる。

 このままタマなどが死んでしまえば、WRBIからまた、ベアドッグを連れてこなくてはならなくなる。これでは「人とクマの共存」に向け、継続的な取り組みはできない。ブレットが亡くなったときも約2年間の「空白期間」があった。

 このため、自前でベアドッグを繁殖させ、生まれた子犬に訓練を実施して適性を見極め、クマの追い払い活動に当たらせる-。こうしたサイクルを繰り返せる態勢を築くことになった。

 WRBIのベアドッグが日本に来る場合、検疫制度上、最短でも生後10カ月必要とされ、幼犬期の訓練をピッキオのハンドラーが担えない事情もあった。犬とハンドラーの信頼関係はこの時期から醸成するにこしたことはない。この間、WRBIに支払う飼育委託費もばかにならない。

 ■活動成果明らか

 ピッキオは10年から、一時的に捕獲したクマに麻酔をかけ、首輪型の電波発信機を装着した後、山々に戻し、生息状況を把握している。今月8日までに計118頭に上り、クマが活動する毎年、6〜10月ごろ、人里近くに接近しているクマの電波を受信すれば、ベアドッグを出動させて、追い払う。

 クマが目撃された件数は統計がある13年度以降、上下動を繰り返しており、「商業地、宅地、集落」を除けば、減少傾向にあるわけではない。件数が多いのは「別荘地」と「森林」で28年度を見ると、51件、49件それぞれある。

 ただし、人身被害や農作物の被害などの件数は、11年以降、最多だった18年の255件から29年には4件に激減し、ベアドッグ活動の成果を裏付ける。

 田中さんは「多くの人のご支援をいただいた。今回の繁殖プロジェクトにしっかり取り組んでいく」と話す。