塵(ちり)に継ぐ、という言葉がある。辞書には、先人の歩んだ後に立つ塵に続く意、遺業を継ぐとある。「正論」メンバーに選ばれて頭に浮かんだのがこの言葉だった。
私の亡父である不二は、多年にわたり本欄への寄稿者だった。8年前に急逝したとき、書斎の机には書きかけの「正論」の原稿があった。ほどなく私がその机の主になったとき、原稿にうっすらと積もっていた塵の色が思い出される。父が最後に立っていた舞台の塵を引き継ぎ、勇気ある言論人たらんと決意している。
≪評価したい首相の覚悟ある決断≫
その第一歩として、私は安倍晋三首相が掲げる「積極的平和主義」が、依然、道半ばだということを訴えたい。
日本が国際社会で存在感を高めるためには、軍事力中心主義を引き続き排除しつつも、世界の平和と安全に関してより大きな責任を担っていかなければならない。こうした考えは、安倍首相のオリジナルではない。湾岸戦争への日本の対応が、金しか出さない「小切手外交」だと批判された衝撃により、外交・安全保障専門家にはそのような考えが広がっていたし、政策面でも、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)への参加拡大など、その方向への変化も起こり始めていた。