ノーベル賞にも輝いた人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究に大きな傷をつけた今回の論文不正。これまで、巨額の資金が投じられてきた花形研究として、注目を集め続けてきたが、トップの山中伸弥所長の進退問題までも浮上するなど、影響は小さくない。
「再生医療に対するマイナスイメージは避けられないと思う」
問題の影響をこう推測するのは、科学と社会の関係に詳しい近畿大医学部の榎木英介講師(病理学)だ。
iPS細胞は先進的でクリーンなイメージが先行。世界をリードする研究領域として巨額の資金が投じられてきた経緯もある。多くの寄付も集まっていたが、こうした問題が起れば、「(研究所への)寄付金の減少などがあるかもしれない」と懸念する。
また、研究不正に詳しい大阪大学全学教育推進機構の中村征樹准教授も「iPS細胞の研究は特に期待が大きいだけに、同種の不正と比べても、そのダメージが大きいものになりかねない」と話していた。
一方、サイエンスライターの白鳥敬(けい)さんは、研究現場に蔓延(まんえん)する過剰な成果主義を指摘。「問題を改善できなければ、このような事案が今後も出てくると思う」と話していた。