老舗あり

神奈川の日本旅館「茅ケ崎館」 小津安二郎の「本書き宿」

【老舗あり】神奈川の日本旅館「茅ケ崎館」 小津安二郎の「本書き宿」
【老舗あり】神奈川の日本旅館「茅ケ崎館」 小津安二郎の「本書き宿」
その他の写真を見る (1/3枚)

 温暖な気候から、政財界の要人や文化人らの保養地として発展した相模湾沿いに広がる湘南地域。明治32(1899)年創業の日本旅館「茅ケ崎館」(神奈川県茅ケ崎市中海岸3の8の5)は日本映画界の巨匠、小津安二郎の定宿として「東京物語」「早春」など数々の名作映画の脚本を書き上げた仕事場としても知られる。小津が滞在した部屋や愛用の品々がそのまま残り、国内外の小津ファンが今も詰めかけている。

     ◇

 「茅ケ崎館の歴史は湘南の歩みとともにあるんです」と語るのは5代目館主の森浩章さん(43)。開館前年に東海道線茅ケ崎駅が開業。東京とのアクセスが向上した茅ケ崎には、保養地として移住する人々が相次いだ。

 いち早く茅ケ崎に別荘を設けた歌舞伎俳優の九代目市川団十郎を慕って演劇人が相次ぎ移住。同館は国内初演となったシェークスピア劇の稽古場としても活用された。演劇人に加えて、付近に開設された結核保養所の見舞客、海水浴を楽しむ富裕層向けの宿としてにぎわいを見せた。

年200日間滞在も

 茅ケ崎館に小津がやってきたのは昭和12年のこと。前年に松竹の撮影所が東京・蒲田から大船(同県鎌倉市)に移転し、多くの映画関係者が湘南に移り住み、時を同じくして同館は脚本家が旅館にこもって執筆を行う通称「本書き宿」となった。小津は潮騒が聞こえる海辺の静かな宿から次々と名作を生み出した。

会員限定記事会員サービス詳細