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明治を代表する啓蒙(けいもう)思想家である福澤諭吉の最も有名な著作『学問のすゝめ』。初編刊行は明治5(1872)年で、大政奉還からわずか4年あまり。封建制度の名残がいまだ濃厚な社会にあって敢然と人間の権利の平等を説き、自立した近代的個人としての覚醒を促した歴史的啓蒙書だ。
〈天は人の上に人を造(つく)らず人の下に人を造らずと言えり〉。天賦人権を説いたこの書き出しはあまりにも有名だが、これに続く部分はそこまで認知されているわけではない。〈されども今広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人(げにん)もありて、その有様(ありさま)雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや。(中略)されば賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるとに由(よ)って出来(いでく)るものなり〉
生来の権利においては平等な人間の「有様」に差を付けるものは、学問の有無である。福澤はこう説き起こして、励むべき学問としては旧来の儒学を退け、文理の近代的科学の意義を強調。日本国民が封建体制下での無知でお上任せの愚民を卒業し、欧米列強と対等に交際できる文明国を主権者として担うに足る自立した個人となることを求める。