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■今再び「自助、自立の精神」
あけましておめでとうございます。明治150年という区切りの年、これから50回にわたり、欧米列強による植民地化の危機を知恵と努力と勇気で乗り越えた明治人が残してくれた作品を毎週1冊ずつ紹介してゆきます。取り上げるのはいまなお私たちに多くの「気づき」を与え、鼓舞してくれるであろう作品です。読者のみなさんにとってこの連載が明治の古典に触れるきっかけとなるよう、単なる内容紹介にとどまらず、作品が書かれた時代のエピソードや現代のこぼれ話などをまじえた読み物にしたいと考えています。
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〈天は自ら助くるものを助く…〉。有名な一文から始まる『西国立志編』は英著述家、サミュエル・スマイルズ著『セルフ・ヘルプ(自助論)』(1867年版)の翻訳本。明治3〜4年に刊行され、福澤諭吉著『学問のすゝめ』と並ぶ明治のベストセラーだ。
訳者の中村正直(敬宇)は江戸幕府の儒学者で、幕末に渡英した際、現地で『自助論』を贈られた。幕府が倒れ帰国後、徳川宗家に従い静岡に移住。静岡学問所で教授の傍ら同書を翻訳、出版した。中村自身も含め幕藩体制崩壊で意気消沈していた旧幕臣を奮い立たせたいという思いが込められていたともいわれる。