「あれからもう16年がたつんだな」
平成30年9月17日、政府専用機で北朝鮮・平壌国際空港に降り立った安倍晋三首相はつぶやいた。官房副長官として、小泉純一郎首相(当時)の初訪朝に同行した日のことを連想したのだった。
安倍首相はこれから、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と会談に臨む。何としても、拉致問題をはじめとする懸案事項の解決へ向けて事態を進展させなければならない。あの日からこれまでのさまざまな出来事が、首相の脳裏をよぎった-。
似通った状況
16年前の初めての日朝首脳会談では、金氏の父である金正日総書記が日本人拉致を認め、謝罪した。その結果、拉致被害者5人とその家族が帰国を果たす。
当時と現在とで、北朝鮮が置かれた状況は似通っている。あの頃、米国は北をテロ支援国家に指定しており、さらにブッシュ大統領(当時)は北を「悪の枢軸」と呼んで、徹底的に金融や経済面で締め上げていた。
「窮した北朝鮮が、活路を再び日本との対話に求めてくるかもしれない」
安倍首相は武力攻撃を含む「あらゆる選択肢」を保持した米国と協調しつつ、むしろ北朝鮮危機を何とか拉致問題の前進へとつなげられないかと腐心していた。
トランプ大統領には繰り返し、拉致問題の重要性とそれが日本だけの問題ではないことを説き、トランプ氏の心中に刻んでいた。