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「試験管の中でタンパク質を作る」-。今風の言葉で言うと意識の低い大学生であった私は、DNAの遺伝暗号をどちら向きに読めばいいのかさえ分からないまま研究室に入り、この研究テーマを紹介された。その当時は「え? そんなことできんの? すげぇ」と思ったのを覚えている。
わくわくしながら先輩に付き従って行った実験は、なかなか面倒くさいものであった。冷凍庫から取り出した数百グラムの大腸菌の塊を、低温室と呼ばれる室温4度の寒い部屋で巨大な石臼を使ってゴリゴリ砕き、何度も遠心分離を繰り返しながら、試験管の中でタンパク質を作るために必要な生体部品を取り出した。
2008年にノーベル化学賞を受賞された下村脩(おさむ)先生が、クラゲを100万匹近く捕まえて研究したという逸話を覚えている方もいるかもしれない。生化学と呼ばれる私たちの研究分野では、生体組織に含まれる生体部品を、こういった面倒くさい作業を行いながら取得して研究する文化がいまだ根強く残っている。
取り出した生体部品にタンパク質の材料となるアミノ酸などを加え、遺伝暗号情報を持つ核酸(mRNAまたはDNA)を入れると、確かに試験管の中で遺伝暗号が解読され、タンパク質の合成が確認された。この結果自体はすでに過去に研究されていたことなので、ここが基礎研究のスタート地点となる。