君津消防士長殉職 消防本部、遺族に「過失無かった」 説明責任果たさず

 君津市内で4月に起きた住宅火災の救助活動中、全身にやけどを負った君津市消防署本署の消防士長、戸田拓也さん=当時(29)=が死亡した際の消防隊の一連の消防活動につき、君津市消防本部(青木一志消防長)が遺族に「過失は無かった」と伝えていたことが28日、分かった。判断理由などを尋ねた産経新聞の取材に、消防本部は「申し上げることはない」と回答。消防本部はこの消防活動を調査・検証することを明らかにしていたが、結果を公表することなく、消防職員の殉職をどう受け止め、今後に生かすか、説明しない姿勢を示した。

 救助活動では、住人を助けに住宅内に入った際、救急隊長と戸田さんが命綱を身体に結んでおらず、救助活動をサポートする援護注水がなかった-といった行為が総務省消防庁の作る安全管理マニュアルに反する活動ではないか、また、消火・救助活動の指揮と消防隊員の安全管理の両立のための状況判断が的確だったかが問題視された。

 調査は4〜11月に3次にわたり行われ、最終的な報告書は外部有識者を入れた「君津市坂田火災事故調査委員会」(委員長、須川修身・諏訪東京理科大教授)名で11月にまとめられた。

 消防本部は今月25日、戸田さんの遺族を本部に呼んで同報告書の内容を説明。ただ、殉職は消防活動の過失が原因だったかについては、消防本部が27日に改めて遺族を訪ね、口頭と文書で「(事故調査委の)調査結果に鑑(かんが)み、現時点においては、過失は無かったものと判断する」と伝えた。

 また、現場の消防職員の判断に委ねた結果の殉職という見解か、などの産経新聞の質問に対し、消防本部は回答を拒否した。

 報告書では、安全管理マニュアルには「命綱を結着」「援護注水を受ける」などが定められているとは言及されたが「(戸田さんらの)進入要領は留意事項を遵守していたとは言えないものであったが、(1)本火災の現象を瞬時に判断することは極めて難しい状況であり…(2)屋内進入時には原則に照らし合わせて状況を判断し必要に応じた行動をしていたことから、瑕疵(かし)があったとは判断できない」と結論付けられ、戸田さんは建物内で発生したバックドラフト現象のため黒煙に巻き込まれたことにより全身熱傷を負ったとした。

 ◇

 同報告書では、(1)市消防本部では現場での消防活動で、安全管理マニュアルよりも、現場隊員の状況判断を優先して安全を確保することが常態化しているのでは?(2)指揮者による、バックドラフト現象にも注意した状況把握と、隊員への指揮命令が適切だったか(3)救助隊長はバックドラフト現象直前に戸田消防士長に退避を命じたとされるが、命綱がない中で命令が届いていたのか-といった点の明確な言及はされなかった。

 事故調査委の委員の一人は「マニュアルは安全規範だが、その場その場で対応が変わってくるものであり、現場の消防隊員の判断に委ねる部分も大きい」と話す。そうした面は否定できないが、チームで物事を行う場合、リーダーが業務の進捗(しんちょく)とリスクを勘案しながら進めるのもまた当然。自らを危険に曝して救助に赴く消防隊員や警察官らの命が左右されるゆえに、公務における、上からの指揮命令や普段からの訓練が持つ意味は一段と重い。

 消防本部が27日に遺族に渡したのは一片のペーパー。「調査結果に鑑み」と言うにとどめず、消防のプロとして殉職事故をどう受け止めるか、言葉を尽くして遺族に伝える義務がある。報告書受領後も、その結果や消防本部としての見解を公表しないのは説明責任回避と受け取られても仕方ない。失われた命の重みに鑑み、反省の言葉と共に犠牲を次につなげる姿勢を示すべきだ。

 バックドラフト現象 火災現場で爆発的に燃焼が広がる現象のひとつ。気密性の高い室内の火災で、酸素不足になり火がくすぶっているところに、ドアが開くことなどで外から新鮮な空気が流入すると、今まで燃えなかった可燃性ガスが爆発的に燃え広がる。気密性が高く、可燃物も多い冷蔵倉庫のような建物で発生しやすい。(菊池一郎)

会員限定記事会員サービス詳細