ニホンザルの社会は第1位オス(ボスザル)を中心に組織する「同心円構造」が特徴。ボスザルは与えられる餌を他のサルを退けて取る一方、争いごとを止めさせたり、発情期に群れ周辺に現れてメスを狙う「離れオス」を威嚇して追い払い、群れの秩序を守る役割を担っている。
同園でボスの座に昇るのは通常、強いメスの家系に生まれ、そのまま群れに留まって母ザルや強いパートナーに守られて育ったオスだ。一方で群れを離れた大人の(性成熟した)オスは交尾期に他の群れを脅かす存在となるが、餌付けされた同園では、離れオスが群れで市民権を得るケースはまれだという。
同園の記録によると、離れオスがボスとなった唯一の例がB群にある。平成9年、6代目「トラ」の時代に、体格のいい「マッチョ」と呼ばれた離れオスがいつの間にか群れに入り込み餌にありつくようになった。同園の飼育員、西尾昭弘さん(62)は当初、「離れオスが餌場まで来て餌をとることはありえない」とあまり気に掛けていなかった。
ところが6年後の15年、推定21歳となった6代目が秋に右足を負傷し、飼育員が保護している間、ボス不在を好機に頭角を現したのがマッチョだった。そして12月3日に7代目の座に就いた。第43回衆院選があった年だ。
マッチョは晩年、2番オスに攻撃を受け負傷、目も見えなくなり、このオスにボスの座(8代目)を取ってかわられた。ボス交代は前のボスが死ぬか、群れから姿を消すことで行われるのが普通だが、存命中に代替わりされるという珍しい事例を残し、伝説のボスとなった。