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人類がいつごろから心を意識し、理解しようとしたのかは定かでない。「われ思う、ゆえにわれあり」で知られるデカルトが提唱した、心と脳は独立した存在とする二元論をはじめ、心脳同一説、中枢状態論、創発的唯物理論など、これまでにさまざまな学説が哲学者や心理学者らによって提出されているが、自然科学の視点からの心の理解はそれほど進んでいないように思う。
心の不思議さと言えば、同じ食べ物でもおいしそうに盛り付ければよりおいしく感じられたり、実際は効果のない薬でも信頼できる医者から渡されるとちゃんと効いたりする(プラセボ効果という)ことだ。しかし、このような心理活動がどこで生まれ、どのように脳内の神経活動を変えるかは、いまだに大いに議論を呼んでいる。
私が脳研究に足を踏み入れた頃は、心と脳の問題について言及する神経科学者は少なかった。しかし、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)やPET(陽電子放射断層撮影)といった体を傷つけないで体内を「見る」ことができるイメージング技術の登場によって、脳科学分野でもこの問題が取り上げられるようになってきた。人の心理活動に伴う脳内の神経活動をこうしたイメージング技術で計測し、脳の仕組みを理解しようとしているのだ。
たとえば最近、イメージング技術で撮影した脳の画像の変化からじゃんけんの出し手を予測するなど、心を読み取ることができるようになったと話題になった。しかし、よく考えると、人の心が読めても、その実態については何も答えられていない。