正論

地政学変えるエルサレム「首都」 この重さを知らないのはトランプ氏自身かもしれない フジテレビ特任顧問・明治大学特任教授・山内昌之

 プーチン大統領は、中東からウクライナそして極東に至るユーラシア地政学の新たな変動の基本軸として存在感をますます強めている。トランプ氏のエルサレム発言に楔(くさび)を打ち込むかのように、ほぼ同時にシリアからのロシア軍撤兵を公言したことは、アラブ人とムスリムの心をとらえる小面(こづら)憎いほどの演出でもあった。

 他方、シリア問題をめぐってスンニ派アラブ人から宗派と民族の両面で反感を買っていたイランは、イスラエルと米国という共通の敵に対峙(たいじ)する存在として、エルサレム問題について頼るべき存在となるかもしれない。まさに「敵の敵は味方」という中東の古典的テーゼが生きているのだ。

 「ああエルサレムよ、もし我なんぢをわすれなば、わが右の手にその巧(たくみ)をわすれしめたまへ」(「詩篇」137)とは、長くユダヤ人の祈りの言葉だったが、イスラエル建国以来むしろパレスチナ人のスローガンにもなった(アモス・エロン『エルサレム』)。

 トランプ氏の演説は、失われたパレスチナ人の都エルサレムという神話と、彼らの離散と敗北の苦しみをさらに強めるに違いない。(フジテレビ特任顧問・明治大学特任教授・山内昌之 やまうちまさゆき)

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