自民、公明両党が来年度の税制改正大綱を決めた。高所得者に負担増を求める所得税改革に加え、企業に賃上げと設備投資を促す法人税減税を盛り込んだ。
日本経済は7四半期連続のプラス成長だが、国民に景気回復の実感が広がらないのは実質賃金が思うように上がっていないからだ。大綱は、3%以上の賃上げをした企業に減税を拡大する一方、基準を満たさない企業は一部の減税を打ち切るとした。
高収益の企業が内部留保をため込む傾向に歯止めをかけ、積極的な賃上げと投資拡大で着実な脱デフレにつなげてもらいたい。それには、賃上げをする企業への継続した後押しが欠かせない。
大手企業が3%以上の賃上げと国内投資を拡大すれば、賃金増加分の15%を税額から差し引く。中小企業は1・5%以上の賃上げで同様の減税が受けられる。一定の基準を満たせば、法人税の実質負担は20%程度に下がるという。
安倍晋三政権は法人税減税を進めてきた。これに円安も加わり、大手の決算は過去最高益が相次いでいる。しかし、賃上げや投資はわずかな伸びにとどまる。さらなる減税で賃上げと投資を促し、消費喚起と生産性向上を通じて経済再生を果たす必要がある。
所得税改革では高所得の会社員の給与所得控除を縮小し、すべての人に適用される基礎控除を増やす。フリーランスの増加など多様化する働き方に対応する。22歳以下の子がいない年収850万円超の世帯などが増税となる。
だが、国の財政事情が厳しい中では高所得者だけでなく、公的年金等控除の見直しなどで幅広い層に一定の負担を求めたい。
日本から出国する際、航空券代に1千円を上乗せ徴収する国際観光旅客税が1年後に導入される。市町村の森林整備財源とする森林環境税は、1人あたり年1千円を集める仕組みだ。
これらの増税は「結論ありき」で決定を急いだ印象が否めず、既存予算との重複もある。国民に丁寧な説明を心がけ、使途を厳格化し、ばらまきに使われるのではないかとの懸念を払拭すべきだ。
森友学園問題の国会答弁で批判を浴びた後、今夏に就任した国税庁長官は、まだ一度も記者会見を開いていない。こうした徴税トップの姿勢は、負担増に国民の理解を得る上で妨げとなろう。