朝日は抗議書で「確かな取材に基づくものであり、『事実を曲げて』といった記述は誤り」と主張していた。門田氏に寄稿を依頼したのは筆者であり、かつ吉田調書問題取材班の一人でもあったため、「こんな抗議文を送って朝日は大丈夫か」と、人ごとながら心配になったのを覚えている。
結局、本紙報道に他紙が続き、政府が当初非公開としていた吉田調書を遺族の許可のもとで公開した結果、朝日はどうするハメに陥ったか。
「抗議は前提となる事実を欠くものであり、抗議したこと自体が誤っておりました」
朝日は9月13日にはこう平謝りで抗議書を取り消し、本紙や門田氏らに謝罪したのである。前々日の11日には、当時の社長が記者会見で「記者の思い込みやチェック不足があった」と誤報を認め、当初は自信満々だった5月20日付のスクープ記事を取り消し、謝罪していた。
あのときと今回が重なってみえる。今回の件でも、朝日の申入書と小川氏の回答書を読み比べると、小川氏側の主張と説明に説得力があるのは明らかである。
賠償要求は報道せず
もう一つ気になるのが、朝日がこの問題を報じた11月22日付朝刊記事「本社、評論家・小川氏に抗議」でも、12月7日付朝刊記事「本社の申入書に小川氏らが回答」でも「謝罪や訂正」を求めたことは明記しながら、損害賠償も要求したことに関しては触れていないことだ。
朝日の申入書には明確にこう書いてあるにもかかわらず、である。