「襲名したからといって自分が変わったとは思わない。考えていること、やっていることは孝夫時代の延長線上。ただ、重い名前を背負った責任はある。名前を汚してはいけないと思っています」
芸域は幅広い。上方和事の頂点ともいえる「吉田屋」の伊左衛門(いざえもん)から、江戸歌舞伎「助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)」の助六。人物の大きさと内面の演技が要求される「仮名手本忠臣蔵」の由良之助…。近年は「霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)」や「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」で、大輪の悪の華を咲かせている。
「どんな人物でも、その人物がそこにいるように演じることが大切。それはつまり役の気持ちになりきるということ」
歌舞伎の舞台は一期一会。ひと月公演の25日間、毎日全身全霊で役に臨む。「お客さまは大抵、その月に一度しかごらんにならない。25分の1の配分で演じるのではなく精魂込めて1分の1を演じるだけです」
最近は、年齢や体力、その演目が上演される頻度の問題もあり、「この役はこれが最後かな」と思うことがあるという。
「どんなお役も演じ重ねていくうちに進化し変化していく余地があると感じる。それなのにこれが最後になるかもしれないと思う。そんな葛藤もあり、千秋楽が近づくと、やっぱり寂しくなりますねえ」