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私が大学を卒業する前、研究の道に進むかどうか考えていた時期は、ヒトゲノムの配列解析がひとまず終わり、それをどのように応用するかというポストゲノム時代と重なっていた。ゲノムとは、生物の設計図である遺伝子を暗号化しているすべてのDNA配列のことを示す。DNAはA(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4種類の塩基が「文字」となり、遺伝情報を記録している。
ゲノム上のDNAの配列が分かったことで、今後はどの遺伝子がいつ、どのように働いているかを解析すれば、色々な生命現象を説明できるようになる可能性が出てくる。ゲノム研究の新しさと可能性にひかれ、大学院に進んだ。私が特に興味を持ったのは、無数の遺伝子の働きがどのようにして緻密に制御されているかだ。DNAの配列をコンピューター画面上で見ながら、どの配列が重要なのだろうかと日々考えていた。
研究を続けていくうちに、遺伝子の働きの制御にはゲノムの折り畳まれ方が重要なのではないかと考えはじめた。そこでゲノムが収納されている細胞核を調べてみると、実はブラックボックスの宝庫であることに気づかされた。細胞核の内部構造、つまりゲノムの立体構造については、あまり詳しく分かっていなかったのである。ブラックボックスの宝庫に魅せられ、私は現在、ゲノムの折り畳まれ方を細胞の分化過程で解析している。