それでも、この政権がまったく無意味に誕生したわけではなさそうだ。トランプ大統領が「忘れられた人々」と呼ぶ白人低所得層は、これまでほとんど政治的に顧みられてこなかった。同性婚からLGBTまで、早過ぎる価値観の変化についていけない、と感じていた人々も少なくはなかった。そういう有権者の声を掘り起こしたのはトランプ陣営の功績である。民主主義が機能していないからではなく、機能していたからこそ誕生した政権と捉えるべきだろう。
≪ジャクソニアンの伝統は覆らず≫
トランプ大統領が理想とし、ホワイトハウスの執務室に飾っているのは第7代アンドリュー・ジャクソン大統領(任期1829〜37年)の肖像画である。「二十ドル札の人」と呼ぶ方が通りは良いかもしれない。
初代ジョージ・ワシントンから6代ジョン・クインシー・アダムズまでの大統領は、全員が貴族出身だった。叩(たた)き上げ苦労人のジャクソンは、当選したこと自体がひとつの事件であった。