東京特派員

「HOKUSAI」が西洋美術に与えた衝撃はすごかった 湯浅博

葛飾北斎が「HOKUSAI」となって海を渡り、ゴッホやモネなど西洋の芸術家に影響を与えたことは、凡夫も少しは知っていた。江戸庶民の風俗や人物を描いた「北斎漫画」のモチーフが、西洋画家たちの作品の中に取り込まれている。

ところが、台東区上野の国立西洋美術館で開催中の「北斎とジャポニスム」展には、いささか驚いた。北斎の版画や肉筆画のどこが、巨匠作品のどこに借用されているかが、一目で分かる展示をしていた。これでは、いかな西洋の画家びいきであっても、グウの音も出ないだろう。

ロートレックの有名なポスター「ムーラン・ルージュ」では、足を振り上げて踊るラ・グーリュの姿が、「北斎漫画」に描かれるユーモラスな人物とそっくりではないか。日本びいきだったロートレックの生家には、「北斎漫画」そのものが残されているというからさもありなんか。

北斎が描く幽霊や妖怪たちは、世紀末の象徴主義にも影響を与え、魚の体に人間の頭をもつオディロン・ルドンの「聖アントワーヌの誘惑」は、北斎の「百物語 さらやしき」の引き写しだ。エドガー・ドガの「競馬場にて」の躍動する馬だって、やはり「北斎漫画」からだし、モネの真ん中に樹木を配した遠近法の「アンティーブ岬」は、北斎の「富嶽三十六景」の駿州江尻からであった。

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