イタリア便り

ルターも認めた「死者の日」の祈り

 11月2日はキリスト教の「死者の日」だ。イタリアでは菊の花束を持って墓参りに行く人が後を絶たない。「彼岸の中日」のようなものだと思えばよいが、墓地を訪れる人の数は日本と比べてはるかに多い。イタリアの墓地は公営で、町や都市に隣接して作られている場合が多いためである。

 国によって宗教の違いはさまざまだが、亡くなった自分の身内や知人の霊に祈りをささげるのは共通して自然な行為であるといえよう。宗教改革の中心人物マルティン・ルターは、聖書に記述のないカトリックの行事をかたっぱしから否定したが、「死者の日」は民衆の生活に根付いているとして認めたという。

 「死者の日」の名称は最近簡略化されたもので、正式には「亡くなったすべての信者の霊を記念する日」であり、昔は「万霊節」などの難しい言葉も使われた。実際、リヒャルト・シュトラウスの名歌曲は「万霊節」の名前で親しまれている。

 なぜ、このような記念日が生まれたのだろう。これは、いくら正しく生きたと信じられた人でも、知らないうちに小さな罪を犯すことがあり、直ちに天国に昇ることが許されないためかもしれない。人々が祈りやミサをささげ、亡き人の罪を軽くしてもらうのだといわれている。(坂本鉄男)

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