昼の部一杯を割いて、新作歌舞伎「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」を上演。古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」からバラタ族の王位継承をめぐっていとこ同士の王族たちが争うさまに焦点をあてた。「マハー」とは偉大なの意。「マハーバーラタ」歌舞伎化への尾上(おのえ)菊之助の熱情で実現した。青木豪脚本、宮城聰演出。
象の国(インド)で起こった戦争がついには世界を滅ぼすと憂えた神々は、慈愛に満ちた太陽神の子、迦楼奈(かるな)(菊之助)と武力を培った帝釈天の子、阿龍樹雷(あるじゅら)(尾上松也)を地上で誕生させ、慈愛と力のどちらが争いを止められるか、眺める。現在の世界情勢にも敷衍(ふえん)できるインドの叙事詩の描写は、そのまま源平時代に重なり、戦乱から生まれる無常感は歌舞伎の古典作と通じる。
菊之助の着眼がそこにあり、本作が肚(はら)にインドの物語を据えつつ、展開はすべて古典歌舞伎の仕様であり意匠である。浄瑠璃、三味線が主導し、ガムラン音楽風な木琴の調べがエスニックな情感を湛(たた)える。両花道を使い、つらね、見得、くどきなど、万全な時代物風味。新作歌舞伎の方向性を指針したのではないか。尾上菊五郎、市川左團次、中村七之助らが出演。