「英国カリカチュアの父」と呼ばれた皮肉屋ホガースによる、吹き出しのない漫画のような、あるいは絵による小説のような、一対の版画作品。
高級ビールを飲めば皆ハッピー、安酒ジンだとこの世の地獄、と対比させているわけだが、古来、天国の描写が平板になりがちなのに対し、地獄となるとどの画家も俄然(がぜん)腕によりをかける。「ジン横丁」も例外ではない。画面のあちこちでいろんな事件が起こっている。
18世紀半ばのロンドン貧民区イースト・エンドが舞台だ。ここ都会の吹き溜(だ)まりでは、誰も彼もが(子供までも)ジンに汚染され、人の心ばかりか街自体も荒廃し、安普請の建物は倒壊しかけている。儲(もう)かっているのは、ジン・ショップと高利貸と棺桶(かんおけ)屋だけだ。身なりをかまう者がいなくなったため、画面右上の2階で理髪師が首を吊(つ)っている。