怖い絵展

(下)中野京子さんが読み解く 地獄の描写、腕によりをかけ

ウィリアム・ホガース『ビール街とジン横丁』より「ジン横丁」1750-51年、郡山市立美術館蔵 c Koriyama City Museum of Art
ウィリアム・ホガース『ビール街とジン横丁』より「ジン横丁」1750-51年、郡山市立美術館蔵 c Koriyama City Museum of Art

 「英国カリカチュアの父」と呼ばれた皮肉屋ホガースによる、吹き出しのない漫画のような、あるいは絵による小説のような、一対の版画作品。

 高級ビールを飲めば皆ハッピー、安酒ジンだとこの世の地獄、と対比させているわけだが、古来、天国の描写が平板になりがちなのに対し、地獄となるとどの画家も俄然(がぜん)腕によりをかける。「ジン横丁」も例外ではない。画面のあちこちでいろんな事件が起こっている。

 18世紀半ばのロンドン貧民区イースト・エンドが舞台だ。ここ都会の吹き溜(だ)まりでは、誰も彼もが(子供までも)ジンに汚染され、人の心ばかりか街自体も荒廃し、安普請の建物は倒壊しかけている。儲(もう)かっているのは、ジン・ショップと高利貸と棺桶(かんおけ)屋だけだ。身なりをかまう者がいなくなったため、画面右上の2階で理髪師が首を吊(つ)っている。

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