【怖い絵展】(中)中野京子さんが読み解く 眠りの恐怖「夢魔」で視覚化(1/2ページ) - 産経ニュース

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怖い絵展

(中)中野京子さんが読み解く 眠りの恐怖「夢魔」で視覚化

ヘンリー・フューズリ「夢魔」 1800〜10年頃 油彩・カンヴァス ヴァッサー大学、フランシス・リーマン・ロブ・アート・センター蔵 (c)Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar College, Poughkeepsie, New York,Purchase, 1966.1
ヘンリー・フューズリ「夢魔」 1800〜10年頃 油彩・カンヴァス ヴァッサー大学、フランシス・リーマン・ロブ・アート・センター蔵 (c)Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar College, Poughkeepsie, New York,Purchase, 1966.1

 画家の類いまれな想像力と造形力によって、それまで個々人が漠然と抱いていた何らかのイメージが一つに集約されたり、また一新されたりすることがある。

 ダヴィッド作「アルプス越えのナポレオン」による輝かしい英雄性、ムンク作「叫び」が提示した存在の不安、そして日本人の幽霊観を決定づけた円山応挙の足のない幽霊画…。フューズリ作「夢魔」もそうだ。

 深い眠りというものは、ある意味こま切れの死に他ならない。夜がその黒々とした翼を拡(ひろ)げるたび、幾度も幾度も自我を完全喪失すると思い、疑い続けねばならない--眠っている間、何か怖ろしいことがわが身の上で営まれていたのではないか、と。

 眠りのそんな恐怖の一面を、妖しくエロティックに表現して強烈なインパクトを与える本作は、悪夢と性夢の結びつきとその本質までも見事に視覚化し、これ以降の芸術作品に多大な影響を与え続けている。

 漆黒の闇を背景に仄白(ほのしろ)く浮かびあがる若い女性の優美な身体のラインは、薄衣の流れるような襞(ひだ)とシーツの曲線で反復される。大きくのけぞったその寝姿は、眠りによる肉体的弛緩(しかん)というよりは性的恍惚(こうこつ)を思わせる。背後のカーテンを割り、好色のシンボルとしての馬が首を出す。