宮家邦彦のWorld Watch

石黒一雄か、Kイシグロか…日本人の両親からの感性とそれを昇華させた英国の教育システムとの「日英合作」なのだろう

 今年のノーベル文学賞が決まった。受賞者は1人だが、紹介方法は2通りある。日本の一部には「長崎出身の石黒一雄氏は長崎と日本の誇り」と素直に喜ぶ報道もあった。一方、内外メディアの多くは「長崎生まれの英国人で世界的ベストセラー作家のカズオ・イシグロ氏」の「力強い感情の作品群」が評価されたと冷静に報じた。さらには、「なぜ村上春樹氏ではないのか」とか「日本はイシグロ氏の世界観に大きく影響」などといった日本的論調も目立った。

 だが、筆者の視点はちょっと違う。石黒氏は彼自身であって、他の誰でもない。日系か、英国人かも、あまり気にはならない。ただ5歳で渡英して現地校で学び、29歳の時処女作が成功して英国に帰化した作家が、いかに自らの感性と文体を磨けたのか。筆者の関心はこの1点にある。

 ネットで石黒氏の著作に関する英文の論評を見つけた。英高級紙ガーディアンの記者が12年前の2005年、当時発表された『わたしを離さないで』について書いた書評だが、そこには石黒氏の半生が見事に描かれている。

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