ノーベル文学賞の授賞が決まったカズオ・イシグロさんの邦訳本を日本国内で独占的に出版している早川書房(東京)では5日夜、決定直後から書店からの注文の電話が殺到し、社員らは対応に追われた。受賞者の事前予想でも上位に上がっておらず、予想外の朗報に同社の早川浩社長(75)は「大吉報だ」と喜びの声を上げた。
「ノーベル賞を取ってもおかしくないとは思っていたけど、こんなに早く取れるとは…」
インターネット中継で発表の様子を見守っていたという同社執行役員の山口晶さん(42)は、驚きの表情を見せた。
発表直後から同社には書店やメディアから問い合わせが殺到。社員十数人が待機していたが、「対応しきれなかった」という。
続々と集まった同社幹部らが取材に対応している間も、書店から注文の電話が次々とかかってくる。在庫は限られているため、別の幹部は「(在庫を超えて)注文を受けた分だけ増刷しないと」と笑顔を見せた。
間もなく駆け付けた早川社長も、自身の予想より早い授賞決定に「非常に驚きだった」と一言。イシグロさんの人柄を尋ねると、執筆活動中にもかかわらず、著作出版に当たってのビデオメッセージを快く引き受けてくれたことを挙げ、「自分の気に入った出版社のことを重んじてくれる。信義にあつく、人思いで温情がある。日本人ここにありきという感じだ」。
また、作品の魅力を「人間味であふれている。それは彼の人格にも相通じるところがある」と語った。